障がいのある子を抱える親の95%以上が
親亡き後に不安を抱えている
現在、日本では障がいのある子のいる家庭のうち、95%の家族が親亡き後の子どもの生活に不安を抱えています。親亡き後も一人で過ごす障がい者の中には、詐欺被害や悪徳商法の被害に遭った、親族などからお金を搾取された、お金がなくなり食べる物が無い、電気・ガス・水道が止まってしまった、施設や不動産屋などから入所・入居拒否をされて住む場所がない、災害で避難が必要な時に誰にも助けてもらえず被災したなど、生活上の問題に巻き込まれる障がい者も、少なくありません。
親亡き後、自分の子の生活に不安がある
出典:新潟県精神障害者家族会連合会2021.03.12「親亡き後」アンケート調査結果をサンプルに作成
障がい者の生活では、一緒に暮らしている家族から身の回りや判断の手助けを多く受けています。しかし、本人のことをよく理解している家族がいるうちは良いものの、親亡き後は、家族が行っていた身の回りの手伝いをしてくれる人がいなくなり、相談相手も居場所もなくなって、孤独・孤立の状態になることも多くあります。時には悪意のある人に騙され、悪徳商法や財産侵害に遭ったり、新たな賃貸住宅や施設に移ることになった場合は保証人や緊急連絡先がおらず、入居・入所できないこともあります。さらには、障がい者は健常者に比べて災害時の死亡率が2倍高いというデータや、過酷な避難生活によって起こる災害関連死の割合も高齢者に次いで高く、緊急時における支援なども必要とされます。
一緒に暮らす家族は、本人のことをよく知っています。
好きな食べ物、服、お店、場所、テレビ番組、趣味、生活習慣の順番、決まり事などのこだわり、ルーティーン、嫌いなこと・苦手なこと、受け入れやすいコミュニケーションの取り方。また、どんな時に怒って、どんな時に喜ぶのか。誰と話すのが好きで、苦手なタイプの人はどんな人か。本人のことを理解している家族は、本人が笑顔でいられるように、楽しく過ごせるように、嫌な思いをしないように、自然に配慮しています。しかし、親亡き後はその「当たり前」を叶えてくれる人がいなくなってしまいます。
家族と一緒に暮らしているときは、家族が食事の準備をして、一緒に食べ、時には食べる手伝いをして、食後は食器などを片付けています。また、洗濯や掃除もして、買い物や通院が必要なときは着替えも手伝い、車で連れて行ったりもします。そして、家に帰ったら、お風呂や歯磨きなども手伝って、寝る準備をして就寝します。
しかし、親亡き後は一緒に住んで身の回りの手伝いをしてくれる人がいなくなります。日常生活を送る上で介助が必要な障がい者の生活のしづらさを調べた調査では、掃除、買い物、食事の準備・片付けなどについて、特に支援を必要としている結果が出ています。
参考:平成28年生活のしづらさなどに関する調査全国在宅障害児・者等実態調(厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部)、
P25「表21 日常生活を送る上で介助が必要な障害者手帳所持者等、日常生活動作等別」を参考に岡崎市社協が作成
障がいの有無に限らず、生活には契約行為や手続きが必要になります。例えば、携帯電話やインターネットの利用、保険の加入、引っ越し、アパートへの入居などの時にも、手続きと契約があります。生活をしていくために仕事に就くこともありますが、その際にも雇用契約があり、通勤等で車やバイクなどが必要となれば、購入の契約を行う必要があります。さらには、給料を受け取るために銀行の口座開設をすることもあり、そのお金で生活するためには引き落としの手続きが必要です。そのほか、自宅の雨漏りや漏水などがあれば改修し、病気になれば病院に入院し、自力での生活が難しくなれば施設への入所が必要となり、全て契約や手続きが必要になります。
加えて、親族に関係した相続や財産処分が発生した場合や事故に遭ったときの保険金受給、都度、社会情勢によって支給される給付金、受け取っていない障害年金など、手続きをしなければもらえないお金もあります。実際、近年には年金生活者支援給付金(2019年より)、コロナ給付金(2021年)、電力・ガス・食料品等価格高騰緊急支援給付金(2022年)なども給付されましたが、手続きができなければ受給できませんでした。また岡崎市では、障害者手帳を持っている人には岡崎市心身障がい者福祉扶助料、愛知県在宅重度障がい者手当などもありますが、これにも手続きが必要になります。
障がい者の中には、社会経験が少なかったり、他人への警戒心が薄かったり、相手の頼みを断るのが苦手な人などが多く、詐欺や悪徳商法、財産侵害などの被害に遭いやすい傾向があります。また、障がい者を狙って近寄ってくる悪質な業者による被害も多い一方、被害に遭っている障がい者は、他者に教えることができなかったり、相談しなかったりする場合も珍しくないため、被害額が大きくなることもしばしばです。
親亡き後には障がい者本人が契約者となることから、家賃債務保証会社の審査に通らなかったり、保証人や緊急連絡先の不在、収入の状況などから、家族と住んでいた賃貸物件の契約を更新してもらえなかったり、出て行かざるを得ないことがあります。また、新たな賃貸物件を見つけて引越しをしようとした場合も、同様の理由で住まいが簡単には見つからないことが多いのが現状です。
さらには、入所施設を探そうとした場合も、法律上は保証人がいなくても入所を妨げる理由にはならないものの、実際には保証人や緊急連絡先を必須としている施設は多く、入所できる施設が見つからないこともあります。特に、トラブルが多くなりがちな人や他者と関係を築くことが難しい人などの場合は、受け入れてもらえる施設が見つからないという事態も発生します。
岡崎市にある親亡き後の事例
軽度の知的障害をもつ博子さん(仮名)は、大好きな両親、妹と一緒に生活をしていました。妹には重度の知的障害があった為、「妹の面倒をみなければ…」という思いが強く、両親と一緒に身の回りの世話をしていました。しかし、ご両親が高齢になってからは、お父さんは病気で他界し、お母さんは認知症を発症して施設に入所する事になり、妹の面倒は博子さんがすることとなりました。
博子さんは、自身と妹の少ない年金収入を元に切り詰めて生活をしていました。一人では難しい家事などはヘルパーに頼りながら、なんとか二人での生活を続けて来ました。そして、博子さんが47歳の時、友人の勧めで出会った男性と知り合い、お付き合いをする事となります。男性も初めの頃は車でいろんなところに連れて行ってくれたり、ご飯をご馳走してくれたりなど優しい面もあり、次第に博子さんも男性に好意を寄せていきました。しかし、博子さんに知的障害があると分かってからは態度が急変し、理由をつけてお金を要求するようになりました。また、男性が既婚者だったことも判明し、男性と口裏を合わせていると思われる女性から、奥さんへの口止め料として50万円を要求されました。
博子さんは大変ショックを受けましたが、大好きだった両親に相談もできません。どうして良いか分からず、男性から求められるお金と口止め料を少しずつ支払うことにしました。支払いが滞ると電話やメールが山のようにきて、ひどい時はに夜自宅のドアを叩いてお金を催促することも出てきて、博子さんと妹は恐怖で夜眠れなくなってしまいました。
ずっと一人で耐えてきた博子さんですが、勇気を振り絞って社協の相談員に全てを打ち明けます。その後、相談員と一緒に地元の警察、法テラスなどの専門機関に相談に出向き、「弁護士が関わっている」と知った男性からの連絡は徐々に無くなっていきました。
その後、50歳になった時、また問題が起こります。知り合って仲良くなった男性から、「仕事で使うから自宅のガレージを貸して欲しい」とお願いされます。初めはガレージを貸したり、たまに外食してご馳走してもらったりするぐらいの関わりだったので受け入れていましたが、博子さんの断れない性格に付け入り、男性の要求は徐々にエスカレートするようになりました。数か月後には合鍵を勝手に作り、自宅に居座って、一緒に生活するようになりました。博子さんのお金で買った食材で毎日料理を作らせ、仕事を無償で手伝わせるようになりますも。博子さんも文句が言えず、言われるがまま一緒に生活していましたが、暴力的な側面も見えてきたこともあり、社協の相談員に気持ちを打ち明け、出ていってもらうことができました。
知的障害者の方の場合、両親が元気なうちは良いものの、親亡き後に金銭的なトラブルに巻き込まれることも珍しくないのが現状です。
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障がい者の家族が安心して
親亡き後を迎えられる町を実現するために
障がい者の方々は、両親が元気なうちは手厚く守られていることが多いものの、親亡き後は生活をしていくために多くの手伝いが必要になるほか、悪意のある人から狙われてトラブルにも巻き込まれやすくなります。そのため、私たちは、「障がい者の家族が安心して親亡き後を迎えられる町」という目標を掲げ、解決を図るための活動や事業費が足りない場合は財源確保を通じた活動の実現等を行なっていきます。そして、「身の回りの手助け」「適正な医療」「契約・手続き」「財産管理」「住まい」「収入」「孤独・孤立防止」「悪徳商法・財産侵害」「災害」の9つの問題に焦点を当て、さらに「家族以外に本人のことをよく理解した支援者の存在」を重視して、社会問題に対する対処療法に留まらず、予防となる活動も行い、社会的インパクト(成果)に繋げることができる活動を行います。
上記の計画には、資金不足等ですぐには実現できない活動も含まれています。それらの事業は財源確保等を行いながら、実現を目指していきます。