生まれ育った家庭によって
子どもの将来が決まってしまう日本
※相対的貧困とは、所得が貧困線(全人口の家計所得中央値の半分)を下回っている割合。
日本の子どもの相対的貧困率※は14.0%(※1)であり、およそ7人に1人が子どもの貧困状態といわれています。先進国が加盟するOECDの子どもの貧困率の平均は12.8%(※1)であることから、日本は先進国の中でも子どもの貧困率が高い国となります。
親にごはんを用意してもらえず満足に食事を食べることができない、経済的な理由で高校進学など自分の将来をあきらめている、必要な学用品をそろえることができない、親が昼夜問わず働いていて夜一人で過ごしているなど、生活困窮世帯には経済的な物が買えないだけではなく、栄養や教育、愛情、経験等が不足するなど、一般家庭では「当たり前に」できることができない子どもがいます。
※1(OECD (2023), Poverty rate (indicator). doi: 10.1787/0fe1315d-en (Accessed on 14 August 2023))
日本の子どもの相対的貧困率をひとり親世帯のみでみると48.15、およそ2世帯に1世帯が貧困状態となっています。
OECDのデータで見ると、日本のひとり親世帯の就労率は先進国で1位となっており、最もひとり親世帯が働いている国となっている一方、ひとり親世帯の相対的貧困率は先進国でワースト1位となっています。日本は働いても働いても、貧困状態から抜け出せないひとり親世帯が多く存在する状況となっていますが、この状況は「自助努力が足りない」「自己責任」ではなく、社会構造の問題と言えます。
出展:OECD Family Database2019
令和3年度全国ひとり親世帯等調査をもとに作成
出展:OECD Family Database2021
男女共同参画白書 令和4年版をもとに作成
何らかの理由で離婚し、ひとりで子どもを養育しなければならなくなった時、同居しない親は養育費を支払う義務があります。しかし、養育費を受け取っているひとり親世帯は母子世帯で28.1%、父子世帯では8.7%と、非常に少ない現状です。
養育費を受け取ることができないのは、養育費の支払いが決まっていたが払われなくなったり、支払い拒否、低収入、D Vなどによる交渉不可などの問題が背景にあることが多くなっています。そもそも養育費の設定を話合えていないなどがあげられ、養育費を受け取ることをあきらめているひとり親世帯が多い現状が見られます。
※厚生労働省「全国ひとり親世帯等調査」(令和3年度)より作成
出展:国立大学法人お茶の水女子大学 平成30年3月30日
平成29年度「学力調査を活用した専門的な課題分析に関する調査研究」
保護者に対する調査の結果と学力等との関係の専門的な分析に関する研究調査より
世帯収入が低い世帯の子どもは、学力が低い傾向があります。また高校卒業後の進路についても、世帯年収(両親の年収)が低いほど大学進学率が低く、大学進学よりも就職を選択する子どもが多い傾向があります。経済的な貧困が理由で、教育の機会が少なくなり、教育の格差、将来の選択の格差にも影響が出ています。
経済的にも生活環境にも困窮した世帯の子どもは、十分な教育を受けることができず、高校や大学進学、その後の就職にも不利な立場となり、安定した職に就くことができず、大人になっても貧困状態、家庭を持ったとしても困窮から抜け出すことができないなど、貧困の連鎖につながっていきます。
このような教育の格差は、経済的貧困に加え、複雑な家庭環境によってさらに状況を悪化させていることも少なくはありません。例えば、家がゴミ屋敷状態で勉強できる環境ではない、狭い家にも関わらず兄弟が多く勉強できる環境が確保できない、親や兄弟など家族の世話(ヤングケアラー)で勉強できる環境や時間がない、親がダブルワーク、トリプルワークをしていて家にいないことが多く宿題を見てもらうことができないなど、金銭面だけではなく、時間や生活のゆとりがないことが、子どもの教育にも影響してきます。
岡崎市にある子どもの貧困の事例 子どもの貧困状態で
生活するひとり親家庭の子どもの現状
中学3年生の伸一君(仮名)は小学5年生の弟と母親と3人で暮らしています。10年以上前に両親は離婚、当時小さかったということもあって父親のことはほとんど記憶になく、今も連絡を取ることも会うこともありません。
母親はダブルワークで生活を支えており、朝早く出勤して一旦夕方に家に戻って食事を作りますが、すぐに夜の仕事に出て、帰宅するのは深夜になります。そのため、伸一君は自力で朝起き、弟が小学校に行く準備を手伝ってから家を出るため、遅刻して学校に行きます。家に帰ってからは、母親が作ったご飯を食べて、そのあとは弟と一緒にお風呂に入り、二人で布団に入ります。お母さんと会える時間は、朝と夕方の少しの時間だけ。「お兄ちゃんだから頑張らないと」という思いはあるものの、寂しさで涙が出ることもあります。シフトの関係でごくたまにお母さんとご飯が食べられることがあるのが、数少ない楽しみです。小さな頃から、お母さんが家におらず、いつも疲れている姿を見ていて困らせたくないという思いもあったことから、甘えることもずっと我慢していました。
学校では、授業に必要な文房具や習字道具、リコーダー、裁縫セット、絵の具、木工道具等は、生活に余裕がなく十分に揃えることができません。1年生の時に買った学校指定の上履きは、すでに2センチほどサイズが小さくなっていて、踵を踏んだまま履いています。体操服も身長が伸びるにつれて袖が短くなり、きつくなってパツパツですが、我慢して使い続けています。水泳の授業の時も、水着を用意することができず、毎回、見学をしています。修学旅行は、着替えや鞄、お小遣いを用意することができず、行くことをあきらめました。「みんなが当たり前に与えられているものが、いつも自分だけない。」「みんなは大切にされているけど、自分だけは大事にされていない。」などと感じ、自己肯定感も下がっていきます。
来年、伸一君は中学校を卒業します。母親を早く助けたいと、卒業後は就職を希望しています。中学校の先生や周りの大人からは、「仕事も給料も限られてくるから、せめて高校だけは卒業しておいた方がいい」と言われますが、自分が高校に行ったら、さらにお金がかかりお母さんに迷惑をかけてしまうことから、本当は行きたい高校を諦めるしかないと思っています。
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子どもたちが安心して生活できる社会を
実現するために
食事、教育、愛情、生活必需品、社会的体験など、一般の子ども等には当たり前にあるべき環境が得られない子どもたちがいる現状を踏まえ、本会では「どのような環境に生まれ育っても、すべての子どもが、十分な食事や教育、生活必需品、愛情など『育つために当たり前にあるべき環境』を得られる社会の実現」という目標を掲げて活動しています。そして、最も大きな問題と考えられる「食事」「教育」「生活必需品」「愛情」「社会性」「生活習慣」「体験」「親の生活力」の不足と、「ヤングケアラー」を含めた9つの問題に焦点を当て、社会問題に対する対処療法に留まらず、根本治療や予防となる活動も行い、貧困の連鎖を断ち切り、社会的インパクト(成果)に繋げることができる活動を行います。