避難や避難生活の 問題が命に係わる災害弱者
(写真:平成20年8月末豪雨・岡崎市内)
日本は自然災害が世界トップレベルで多い国と言われています。愛知県では1959年の伊勢湾台風において、死者・行方不明者が3,000人を超え、家屋の全壊や床上浸水は76,000棟を超える被害となりました。1991年にも台風18号の豪雨災害によって大きな被害を受けているほか、2000年には東海豪雨において多くの市町が被災し、岡崎市においても、床上浸水が414棟の被害が発生しました。愛知県内では、過去70年で7年に1回は被害の出る災害(風水害)が発生しており、災害が少ないとは言えない地域となっています。
(写真:平成20年8月末豪雨・岡崎市内)
2008年の平成20年8月末豪雨では、岡崎市においても観測史上最大の猛烈な雨を記録し、各地で河川氾濫や内水などによる甚大な浸水被害が発生しました。当日は昼から夕方にかけて、大雨洪水警報・土砂災害警戒情報に基づく避難勧告が発令され、避難所2か所に46世帯68人が避難しましたが、夜20時頃には天候が落ち着き、一旦各警報が解除され、事なきを得たと思われました。しかし、その4時間後の夜0時過ぎに再び大雨洪水警報が発令され、視界が遮られるような豪雨となりました。1時過ぎには道路が冠水し、床下浸水の救援依頼が災害対策本部に入り始め、すぐに電話20本が同時に鳴りだす事態となりました。「胸のあたりまで水が来た!!」という緊迫した救援依頼も入り始め、2時10分には全国でも初めてとなる全市民(146,000世帯)への避難勧告が発令されることとなりました。その結果、岡崎市では死者2名、家屋の全壊や半壊が9棟、床下・床上浸水が3,000棟を超える大きな被害となりました。
愛知県は最後に経験した大きな地震である三河地震(1945年)から、大きな地震を経験したことがありません。そのため、「地震が起こりにくい地域」だと認識している方も多いと思われますが、三河地震から遡って100年の間(1845〜1945年)で見てみると、マグニチュード6.5から8.4の大規模な地震が13回(平均すると8年に1回)も発生しており、過去は大規模地震が非常に多い地域だったと考えられます。
東海地方でも大きな被害になることが予想される南海トラフ巨大地震は、東海地震、東南海地震、南海地震が連動し巨大地震になるとされています。下表のように1361年に発生した正平東海・南海地震以降、南海トラフ上では100~150年周期で多くの地震が発生しています。次に起こると予想されている東海地震においては170年近く発生しておらず、相当なひずみが蓄積されていることから、2043年までに87%の確率で発生すると言われています。
南海トラフ巨大地震が発生した際には、愛知県には最大22mの津波が来ると予想されており、全国での死者数は230,000人超、県内の被害は全壊・消失棟数約94,000棟、死者数は約6,400人になると想定されています。
昭和南海地震被害写真(1946年)
出典:徳島地方気象台ホームページ (https://www./data.jma.go.jp/tokushima/index.html)
「牟岐町東部の被害、津波の通った道筋」(徳島地方気象台ホームページより)
地震発生年 | 地震名 | 被害状況 | マグニチュード |
---|---|---|---|
684年 | 白鳳(南海)地震 | 日本最古の地震・津波記録、土佐津波で甚大な被害 | M8.25 |
887年 | 仁和(南海)地震 | 京都、摂津を中心に死者多数、津波あり | M8.25 |
1096年 | 永長(東海)地震 | 東大寺の鐘が落下、伊勢、駿河津波により民家多数流出 | M8.0〜8.5 |
1099年 | 康和(南海)地震 | 興福寺、天王寺被害、地殻変動により土佐の田畑海没 | M8.0〜8.3 |
1361年 | 正平東海地震 正平南海地震 |
畿内で強い揺れ、摂津、阿波、土佐で津波、死者多数 | 不明 M8.0〜8.3 |
1498年 | 明応東海地震 | 浜名湖が海とつながる、伊勢、志摩、駿河などに津波、死者多数 | M8.2〜8.4 |
1605年 | 慶長地震 | 関東から九州まで太平洋岸に津波 | M7.9 |
1707年 | 宝永地震 | 死者2万人以上、太平洋岸に広く津波、49日後に富士山の宝永大噴火あり | M8.6 |
1854年 | 安政東海地震 安政南海地震 |
紀伊、土佐などで津波被害甚大、大阪湾に注ぐ川が逆流、31時間後に安政南海地震発生 | M8.4 |
1944年 | 昭和東南海地震 | 西尾市の旧矢作川流域で震度7、死者・行方不明者1,223人 | M7.9 |
1945年 | 三河地震 | 震源地は三河湾。安城、西尾市に甚大な被害、死者2,000人あまり | M6.8 |
1946年 | 昭和南海地震 | 中部から九州地方にかけて最大震度5、死者・行方不明者1,443人 | M8.0 |
豪雨・土砂災害では、家族や家、家財、大切な思い出の品などが流されることもあります。また、地震が起こると家や周りの建物が倒壊して下敷きになったり、生活に欠かせない電気・ガス・水道などのライフラインが止まることもあります。さらには、住宅密集地で広範囲に燃え広がる大規模火災では、家族が煙に巻き込まれたり、住まいや大切な物を焼失してしまうこともあります。
豪雨・土砂災害
地震・津波
大規模火災
災害名 | 高齢者の死者の割合 | 備考 |
---|---|---|
東日本大震災(岩手県・宮城県・福島県) | 66.1% | 60歳以上 |
平成30年7月豪雨(愛媛県、岡山県、広島県) | 約70% | 60歳以上 |
うち、倉敷市真備町のみ | 約80% | 70歳以上 |
令和元年台風第19号 | 約65% | 65歳以上 |
令和2年7月豪雨 | 約79% | 65歳以上 |
うち、熊本県のみ | 約89% | 65歳以上 |
災害時には、高齢者や障がいのある人などの災害弱者が、最も被災の危険性が高くなります。東日本大震災では、死者・行方不明者のなかで身元が確認できた15,900人のうち、60歳以上の死者の割合は66.1%でした。障がいのある人の死亡率も、被災者全体の約2倍となっています。また、被害が多かった地域の調査では、人口の一部と思われている寝たきりや付き添いが必要な人等の「自力避難が困難な人」が、死者全体の20%を占めていたという調査結果もあります。
さらには、愛媛県、岡山県、広島県での被害が多かった平成30年7月豪雨や、令和元年台風第19号、令和2年7月豪雨などにおいても、右表のように高齢者の被害の割合が6~9割と非常に高くなっています。特に、平成30年7月豪雨において市区町村別死者数最大となった倉敷市真備町においては、70歳以上の割合は約80%でした。
発災後の避難に関連しては、被災地域において避難が必要な90代の女性が「老人は避難の足手まといになる」という遺書を残して、自ら命を絶つ悲しいできごとも起こっています。
高齢者
障がい者
子どもがいる家庭
外国人
発災後の避難生活においても、最も命・健康への影響を受けるのが災害弱者です。災害が起こった際は、過酷な避難生活による心不全・心筋梗塞、栄養障害、持病の悪化、車中泊などでのエコノミークラス症候群、集団生活での感染症等による「災害関連死」が発生することがあります。
実際に、東日本大震災では、災害関連死をした人の86%~90%が66歳以上の高齢者だったというデータがあります。他の調査では、災害関連死の24.6%が障がい者だったという結果もあります。また、熊本地震においても、災害関連死の80%以上が70代以上の高齢者であり、避難生活においては、災害弱者には多くの危険が伴う状況となります。
さらに、愛知県には多くの外国人も住んでおり、言葉の壁によって避難生活での支援情報も得にくく、支援や情報の格差が懸念されます。
岡崎市において大きな災害が発生し、多くの被災者が出た場合には、本会が「災害ボランティア支援センター」を運営し、全国各地から集まるボランティアを受け入れながら、被災者が早期に日常生活への復帰ができるよう支援を行います。また、災害ボランティア支援センターでは、全国の約1,800ある社会福祉協議会の約140,000人いる職員の中から、東日本大震災をはじめ、各地の災害支援に関わってきた災害のプロとも呼べる専門家等を招集して支援活動を行うことになっており、災害による被害を受けた家屋の清掃や片づけ、生活必需品の提供、住居支援、資金支援、災害弱者の安否確認を行いつつ、支援が必要なくなるまで活動を行っていきます。
災害時の災害弱者の「安心」と
被災者の「早期日常生活復帰」を
実現するために
日本は世界で最も自然災害が多く、災害時には、高齢者や障がいのある方々などの災害弱者(避難行動要支援者)が被災する可能性が高くなります。
そこで、私たちは『災害時の災害弱者の「安心」と被災者の「早期日常生活復帰」の実現』という目標を掲げ、計画(ロジックモデル)を作成しています。
具体的には、目標を達成するため、災害弱者の方々に情報がより届きやすくし、単独での避難が難しい方々などがスムーズに避難できる仕組みづくりをサポートします。また、高齢者や障がい者、乳幼児のいる世帯、外国人などにとって負担の大きい避難生活を少しでも安心して過ごせるようにするための、事前の仕組みづくりや人材養成などを行います。また、被災した自宅に少しでも早く戻り、日常を取り戻すことができるようにする活動や被災者の心のケアなどの取り組みなどを行い、早期に通常の生活に戻れるよう支援を行います。