早死リスクが50%高くなる 孤独・孤立
孤独・孤立と死亡率との関係性を調べた調査では、早死リスクが肥満の2倍になったり、一日にタバコを15本吸うことに匹敵するなど健康リスクが高くなる結果が出ており、社会的な交流のない人は、ある人に比べて早期死亡リスクが50%も高くなると言われています。
孤独・孤立は、ストレスの増加、免疫力の低下などを引き起こし、うつ病、認知症の発症リスクを高め、自殺リスクも高まるなど命に関わる重大な悪影響を及ぼします。
OECDの調査において、「家族以外の人」との交流が「全くない」「ほとんどない」と回答した人の割合が平均6.7%のところ、日本は2倍以上の15.3%とOECD加盟国20か国中で最下位となっており、先進国の中でも最も孤独な人が多い状況が見えています。「どの程度、孤独を感じるか」ということ聞いた国内における孤独に関する初めての調査※では36.4%と、約3人に1人が「孤独感がある」と答えており、これを日本の人口でみると約4,535万人(2022年時点)、岡崎市の人口に置き換えると約15万人(2023年時点)に相当する人数が「孤独・孤立」の状況にあると考えられます。
※「孤独・孤立の実態把握に関する全国調査(人々のつながりに関する基礎調査)」(内閣官房孤独・孤立対策担当室)
引用:OECD,Society at Glance:2005 edition,2005,P83
「社会問題に関わっていく自発的団体の多様さ」や「社会全体の人間関係の豊かさ」は、「ソーシャルキャピタル」と呼ばれ、人々の結びつきを支える仕組みの重要性を説く考え方ですが、日本は世界167か国中141位と「人と人の繋がり」が弱い国となっています。先進7カ国で構成されるG7では最下位であり、近隣国である中国、韓国、台湾などの国々よりも低い数値となっています。
また、日本は同居家族以外に頼れる人がいない高齢者(60歳以上)や、悩み・心配事があった場合に誰にも相談しない若者(13~29歳以上)が他国に比べて多いという国内の調査結果もあり、「人と人の繋がり」における問題が多く存在することがわかります。
ソーシャルキャピタル国別ランキング
順位 | 国名 |
---|---|
1 | デンマーク |
2 | ニュージーランド |
3 | ノルウェー |
4 | スウェーデン |
9 | 米国 |
10 | カナダ |
15 | 英国 |
20 | ドイツ |
22 | フィリピン |
31 | 中国 |
41 | イタリア |
43 | フランス |
44 | 台湾 |
107 | 韓国 |
141 | 日本 |
引用:LEGATUM INSTITUTE,Legatum Prosperity Index2023,pp.21-23より引用し、一部改変
世界119カ国を調べた調査から「人助けをしている国」のランキングを出している「World Giving Index2022」では、※「人の手助け」「寄付」「ボランティア」の総合評価による人助けのランキングにおいて、日本は119カ国中118位と、世界で2番目に人助けをしない国となっています。アメリカ、カナダ、イギリス、ドイツ、イタリア、フランスなどG7の国々、中国、台湾、韓国、フィリピンなどの近隣国なども、日本より上位に入っています。日本人の感覚的には、「人の手助け」はするが、「寄付」「ボランティア」をしないので、順位が下がっていると思うかもしれませんが、実際は最も順位が低いのが「人の手助け」であり、「寄付」「ボランティア」は118位よりも順位が上となっているのも特徴的です。
日本 | アメリカ | カナダ | イギリス | ドイツ | イタリア | フランス | 中国 | 台湾 | 韓国 | フィリピン | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
総合 | 118位 | 3位 | 8位 | 17位 | 55位 | 109位 | 100位 | 49位 | 91位 | 88位 | 20位 |
人の手助け | 118位 | 4位 | 50位 | 97位 | 91位 | 113位 | 116位 | 49位 | 99位 | 96位 | 15位 |
お金の寄付 | 103位 | 9位 | 13位 | 5位 | 48位 | 67位 | 70位 | 51位 | 41位 | 45位 | 79位 |
ボランティア | 83位 | 7位 | 33位 | 55位 | 20位 | 93位 | 32位 | 35位 | 102位 | 89位 | 6位 |
引用:CAF(Charities Aid Foundation),World Giving Index 2022,pp.21-23より引用し、一部改変
望まない孤独・孤立が起こっている原因としては、親との同居率の低下や未婚率・離婚率の増加、出生率の減少などによって、家族・親族とのつながりが減少してきていることがあげられます。仕事が忙しさや地域活動の縮小などによって、地域とのつながりが少ない人も増加してきており、近所とのコミュニケーションも減少してきています。思わぬ病気で健康が悪化すると、近所付き合いだけでなく、友人や元同僚などとの付き合いも減少し、ますます孤独・孤立は加速してしまいます。また、現在の日本は、助け合いの文化も他国に比べて弱いということが指摘されており、このことも孤独・孤立の人が増える要因と考えられます。
家族・親族との繋がりの減少
近所の人のコミュニケーションの減少
友人との付き合いの減少
引退(退職)と同時に社縁が失われる
新たなつながりを作る機会の減少
助け合いの文化が弱い
孤立・孤独の事例人との繋がりが途絶えたときの生活と苦しさ
義夫さん(仮名)は、退職後、山間部の静かな土地で夫婦二人、仲睦まじく生活をしていましたが、妻が病気になり、先立たれてからは一人暮らしとなりました。遠方にいる子どもは一年に一回、家に帰ってくればいい方で、仕事が多忙で帰って来れない年も珍しくありません。
義夫さんは仕事の人で、近所の人との付き合いや自治会の役員などはずっと妻がしていたため、近隣の人との繋がりはなく、コミュニケーションをとることもほとんどありません。人との会話をしたのは、訪問販売の人が訪ねてきた1ヶ月前が最後です。あまりにも人との繋がりがなく、たまにスーパーに行った時にレジの人が優しく話しかけてくれるだけでも、嬉しくなります。
あるときにいつも会話をしてくれる訪問販売の人が、良い健康食品があるんだけどなかなか売れない、このままではクビになってしまうと悩み事を話され、かわいそうに思った義夫さんは、正直、欲しくはなかったものの総額20万円の健康食品を購入しました。「これで元気になるなら安いもんだ。あの訪問販売の人がクビになって来なくなってしまうのも寂しい。」と、本人も整理をつけていました。
しかし、その後、訪問販売の人が義夫さんのもとへ訪れることはありませんでした。「あんなに良い人が来ないなんて、きっと何かあったに違いない。」と思い、何度も業者に電話しましたが繋がりません。調べてみると、悪質商法によく使われている健康食品ということもわかり、「私はあの人に騙されたんだろうか。」と落胆しました。
義夫さんは一人暮らしのため、家のことをするのも当然、すべて自分でする必要があります。ある時、家の電球が切れてしまい、交換しようと足の痛みを我慢しつつ、テーブルの上に上がりました。すでに80歳を超えている状況で、ふらふらしながら電球に手を伸ばしました。電球を外そうとして「なかなか外れないな。」と力を入れた瞬間、手が滑ってバランスを崩しました。「あっ!」と思った時には、義夫さんはテーブルの上で倒れていました。幸い下に落ちることはなく、大きな怪我になりませんでしたが、打ちどころによっては命の危険さえありました。
義夫さんは天井を見ながら、「今はなんとかやってるが、いま落ちていたら誰が救急車を呼んでくれて、もし死んでいたら、誰が見つけてくれたんだろうか。」と思い、その時から一人でいることに対する不安が一気に大きくなっていきました。
認知症になったら、この先どうなるんだろう。入院した時に世話をしてくれる人もいない。子どもたちは遠方にいるから頼れない。死後、何ヶ月も見つからずに孤独死をするのは嫌だな。そのような不安が募っていた時、回覧板に地域の人たちが集まっておしゃべりや体操、ゲームなどをしているサロンが近くの公民館で行われてることが書かれていて、思い切って問い合わせて参加してみることにしました。
最初は、年寄りがいくようなものという抵抗もありましたが、いざサロンに行ってみると妻の友人・知人という人から声をかけられ、久々にまともに人と会話をすることができました。「家族以外とこんなに話したのは仕事をしていた時以来だ。」と喜ばれ、目には涙が滲んでいました。
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望まない孤独・孤立を
なくすために
孤独・孤立の問題は、単体でも寿命を短くするだけでなく、不測の事態の発生と重なった際には命の危機や人生の危機を何倍も深刻にする社会問題の最も深刻な社会問題です。貧困、介護、住まいの喪失、移動困難、悪質商法などで大きなトラブルとなった際には、孤独・孤立という「黒幕」がいることも珍しくありません。
そのため、私たちは『望まない孤独・孤立をなくす』という目標を掲げ、「孤独・孤立」は最も解決するべき問題であるという認識のもと、活動を行っています。
「家族」 「友人」 「近所」 「社縁」 「新たなつながり」 「助け合う文化」の6つの視点に焦点を当て、社会問題に対する対処療法に留まらず、根本治療や予防となる活動も行い、社会的インパクト(成果)に繋げることができる活動を行います。